太平洋セメント ~東日本大震災の復旧・復興で被災地に貢献し 廃棄物処理で社会に貢献する~
大船渡工場(拡大部分:被災前の状況)
当社大船渡工場は岩手県沿岸南部の大船渡市にあり、大船渡湾最奥部に位置する臨海型セメント工場です。海側敷地には1号キルン(焼成用回転窯)と県道を挟んだ山側(高台)には5号キルンがあり、従業員数は約160名で年間200万トン強のセメントを生産し、東北は勿論、関東臨海部に向けて供給しています。
2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う約10mの巨大津波により大船渡市は、人口約4万のうち死者・行方不明者が約400名となりました。当工場も、工場全体の約7割を占める海側部分が被災するなど壊滅的状況となりました。しかしながら従業員は、常日頃からの準備と訓練により指定避難場所である高台へ避難し難を逃れることができました。非番で出勤していなかった人も含めて全従業員が無事でしたが、残念ながらご家族を亡くされた方もいました。
迅速なる復旧・復興にむけて
震災から3日後には、被害の少なかった5号キルンを早急に復旧させ、津波被害で生じた「災害廃棄物」を焼却処理するとの会社方針が示されました。岩手県も莫大な災害廃棄物処理において、当工場をその処理の中核と位置付け沿岸南部(宮古市~陸前高田市)の広域処理計画を策定しました。当社が永年培ってきた高温(1450℃)での焼成技術を活用し、セメントキルンを焼却炉として使用することは史上初の試みでしたが、2011年6月には5号キルン、続いて被害の大きかった1号キルンも同年12月より稼働し、災害廃棄物焼却処理が開始されました。
それと同時進行で本来のセメント生産に向けた復旧工事も加速され2011年11月に5号キルン、翌年6月には1号キルンでのセメント生産を再開し、震災前と同様の2基体制となり本格的な震災復興に向けてのセメント供給体制が整いました。
廃棄物のセメント資源化の特長
ここで、セメント工場で廃棄物をセメント資源(原燃料)化する場合の特長について説明します。一般の焼却処理の場合は必ず焼却灰が発生し、それを最終処分場で埋め立て処理することが必要となります。一方、セメント工場で処理する場合は、焼却時の熱を製造工程で利用するだけでなく焼却灰自体もセメントの原料として取り込まれるため、二次的な廃棄物が一切発生しないという特長があります。除塩設備
この特長を活かして、災害廃棄物をセメント資源として使用する際の最大の障害は、津波由来による高塩分濃度であったことから、当社は他社と協力して前工程で水洗処理する独自の「除塩システム」を開発しました。更に、災害廃棄物には多くの土や砂も含まれていることから、土や砂を分離し品質改良をすることで復興工事用資材(土工資材)として再生する方法も考案しました。この結果、「セメント資源化」と「土工資材化」の2つの方法で災害廃棄物処理が行えることとなり、2013年度末までに岩手県の当初推計災害廃棄物量525万トンのうち当工場において100万トン近くの受け入れを実現しました。
未曾有の被災からの復旧に向けての災害廃棄物処理と更には復興に向けてのセメント最大生産、それを並行して成し遂げて行くことは、非常に困難なものでしたが、当社の歴史のなかで積み上げてきたセメント製造技術に加え、廃棄物をセメント製造工程に取り込む技術(注1)があったからこそなし得たものと考えています。セメント産業並びに当社グループが将来にわたって日本の国土と環境そして明日の命を守る存在であることを確信しています。
(注1 現在セメント1トンあたり約450キロの産業廃棄物を受入処理)
2015.12掲載