ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

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人権に関するさまざまな知識のコーナーです

「ブラインドサッカーの魅力」

プロフィール

NPO法人 日本ブラインドサッカー協会 事務局長
松崎 英吾 (まつざき えいご)

1979年千葉県生まれ。
大学在学時に運命的に出会ったブラインドサッカーに衝撃を受け、関わるようになり、2007年に日本視覚障害者サッカー協会(現・日本ブラインドサッカー協会)の事務局長に就任。「サッカーで混ざる」をビジョンに掲げ、サスティナビリティがありながら事業型で非営利という新しい形のスポーツ組織をめざす。

ブラインドサッカーのアイマスクとボール

杖を地面にたたきながら一人で歩いている人を見かけたら、みなさんは声をかけますか?
私自身、日本ブラインドサッカー協会という視覚障がい者スポーツ組織で働き始めて10年余。私にとって視覚障がいは身近な存在ですが、街中でこのような場面に遭遇しても、必ずしも声をかけるわけではありません。
声をかけるかどうかは、自分の直観に従うようにしています。その瞬間に自分が「あ、ちょっと声かけたほうがいいかな」と思ったら声をかける。ちょっと見て、なにも感じなければ、声をかけない。そして、後で「もしかしたら声をかけてあげたほうが良かったかも」とは思い返さないようにしています。
「視覚障がい者のスポーツ組織で働いているのに、それでいいの?」と思われるかもしれません。「そういう時は、必ず声をかけたほうがいいんじゃないか」という考え方もあるでしょう。実は私もこの仕事に就く前は、視覚障がいのある人を見かけたら、声をかけなきゃいけないと思っていました。そして、そう思えば思うほど、声をかけられず、残念な気持ちになっていたことを覚えています。
でも、いまはこう思います。「考えなくていい。肌感覚でいい」。そう気づかされた、そして私にとって人生の転機となったエピソードを紹介します。
小学生の頃、私には悩みがありました。ひとつは「背が小さい」こと。1年生から6年生までの間、体育の授業も朝礼も、私の定位置はいつも先頭。もうひとつは、「障がい児学級の同級生と手をつなぐ」こと。なぜか背の順で並んで先頭の生徒が、校外学習のときなどに彼らと手をつなぐことになっていたのです。

2017年に開催された「ワールドグランプリ2017」

障がい児学級の子と手をつなぐことに納得できないまま、6年間同じ子と手をつなぎ続けた私は、結局その子の障がいの理由や症状を聞くことも、ましてや一緒に遊ぶこともなく卒業。この経験から、私の心には障がい者に対するバリアが張られていきました。杖を地面にたたきながら一人で歩いている人を街で見かけても、声をかけることもなく、むしろなるべく接しないようにする。そんな学生時代を過ごしていた私に転機が訪れたのは、大学3年生の時でした。
「ブラインドサッカーというものがあるらしい」
それを誰から聞いたのか、そして強い苦手意識があった私が、なぜブラインドサッカーを体験しに行こうと思ったのかはよく覚えていません。ただ、駅の待ち合わせ場所に行ってすぐに後悔したことはよく覚えています。周囲の健常者が視覚障がい者と親しく話をしているなか、私だけ誰とも話すことなく、そこに突っ立っていることしかできなかったのです。

2013年にブラジルを招へいして国際大会を開催

待ち合わせ場所から練習場へ移動する時も、「手引き」と言われる視覚障がい者をサポートしながら一緒に歩くこともまったくできず、無力感を感じていました。自分は彼らの役に立てない。私が来る場所ではなかったのだと。
そんな気持ちのまま練習場に着き、もう帰ろうかと思っているうちに練習が始まってしまいました。最初のメニューは視覚障がいの選手とのパス練習。「まずいことになったなあ」とびくびくしていると、その選手からこう言われたのです。「松崎くんも、アイマスクをつけてやってみようよ」
お互いにアイマスクをつけて、選手も私も見えない状態。最初は怖かった。でも選手のアドバイスに従って体を動かしていると、不思議と恐怖心は薄れていきました。転がるとボールから出る「シャカシャカ」という音。選手の「へい、こっち」という声。その声を頼りに、パスを出す。うまく蹴れたかよくわからないけれど、選手からは「いくよ!どこ?」という声がする。慌てて、「あ、こっちこっち」と声をかける。

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お互いが、お互いの声を必要としている。そして、目が見えていたらなんてことのないパス交換が、いまはパスがつながるだけで嬉しくなる。声が伝わり、気持ちがつながるような。そして、気づく。それまで自分が意識していた「障がい者」とか「支えてあげなきゃ」という気持ちが全くなくなっていたことに。
「ピッチの中が障がいを忘れるとき」。これはブラインドサッカー選手たちの言葉ですが、実は「健常者」にとっても同じなのだと思います。選手たちと同じフィールドに立つと、「彼らとどう接したらいいのだろう?」とか「迷惑をかけないかな?」という考えはなくなります。というより、聞く、叫ぶ、蹴る、走るに必死で、夢中で、考える余裕などなくなっていくのです。
するとやがて、「ああ、彼らはこういう感覚なんだ。だったら自分も、自分自身の肌感覚で彼らと接すればいいんだ」。そういう気持ちがわいてきます。それは、「やらなきゃ」という義務感でも、「こうあるべき」という世間体でもなく、とても自然体な「これでいいのだ」という心持ちです。
そのために大切なのは、「視覚障がい」の常識や正しさを伝えることだけではないのかもしれません。ブラインドサッカーは2020年東京パラリンピックの正式種目です。きっとそのプレーをテレビや競技場などで見る機会は増えていくことでしょう。それは、スポーツを通じた障がいとの出会い直しの機会でもあり、その機会が皆さん一人ひとりの「肌感覚」を養うことではないかと思うのです。
ブラインドサッカーとは
視覚障がい者のために考案されたサッカー。フットサルとほぼ同じサイズのピッチの両脇には高さ約1メートルのフェンスがあり、転がると音の出るボールを使う。フィールドプレーヤーは目が見えない人、ゴールキーパーは目が見える人が担うが、光を感じる人もいるので、フィールドプレーヤーはアイマスクを全員が着用する。相手ゴール裏にガイドと呼ばれる人がいて、フィールドプレーヤーはガイド、監督、ゴールキーパー、そして仲間の声による情報を得てプレーする。パラリンピックの正式種目でもある。
NPO法人 日本ブラインドサッカー協会 (Japan Blind Football Association/JBFA)
〒169-0073東京都新宿区百人町2-21-27
URL: http://www.b-soccer.jp/

※写真提供:JBFA

2019.9掲載

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