ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

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人権に関するさまざまな知識のコーナーです

情報のバリアフリーとピクトグラム

プロフィール

公益社団法人日本サインデザイン協会常任理事
株式会社ソーシャルデザインネットワークス代表
定村 俊満(さだむら としみつ)

空間領域と情報領域を横断するトータルデザインアプローチが特徴。障がい者や高齢者、こどもなど社会的弱者のためのプロジェクトは大きな評価を得ている。代表作「福岡市営団地下鉄七隈線のトータルデザイン」は多くの賞を受賞。

ピクトグラムとは

2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けてさまざまな計画が進められています。多様な言語を母国語とする外国からの訪問者や、情報の受発信に障害がある人たちへの対応を目的とする「情報のバリアフリー化」もその一つです。

ここではその内のピクトグラムについて考えてみたいと思います。ピクトグラムは図記号とも呼ばれ、文字に頼らず、図の形や色彩で一定の情報や注意を示すための視覚記号のことです。駅や空港などで多く使われています。

ピクトグラムは、さまざまな言葉を話す労働者が周辺の国々から流入していた20世紀初頭のスイスで考案されたのが始まりだとされています。一定の言語に頼らず、多様な能力の人々が直感的に情報を理解できるピクトグラムの仕組みが、ここから社会に広がっていきました。

日本の公共ピクトグラム

日本の駅や空港では、20世紀中頃からさまざまな公共のピクトグラムが使用されましたが、それらが統一的に整備されたのは、2002年のFIFAワールドカップ日韓大会がきっかけでした。2001年3月に交通エコロジー・モビリティ財団(※1)が125項目のピクトグラムを「標準案内用図記号」として策定しました。その後2002年に110項目のピクトグラムがJIS(日本工業規格)化され、現在の日本のスタイルが確立しました。

世界のスタイル

世界の標準的な公共ピクトグラムにはさまざまなスタイルがありますが、主なものはAIGA(※2)のシンボルサインと、ISOのグラフィックシンボルです。

AIGAはアメリカ・グラフィック・アーツ協会が提唱するスタイルで、米国の空港などを中心に統一的に使われており、日本の空港や駅でもJIS化以前は主にAIGAのピクトグラムが使用されていました。現在のJIS図記号も基本的にAIGAのスタイルを踏襲しています。

一方ISOは、世界各国約160団体が加盟している国際標準化機構が定めているスタイルで、その国独自の社会事情を反映したものも多く、日本では日本工業標準調査会が運営を担っています。

2020年に向けて

2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて進められているピクトグラムの検討内容は、まず「無線LAN」や「海外発行カード対応ATM」等、海外からの来訪者が必要とする項目の追加です。これらは主に技術の進歩や環境の変化により、新たに必要性が高まった情報です。(図1)

また「ベビーケアルーム」や「駐車場」等、AIGAをベースに考案されたピクトグラムを、国際標準となりつつあるISOに適合させる作業も進められています。(図2)

さらに、「温泉」等、外国からの来訪者がわかりにくいピクトグラムの変更・追加も同時に進められています。日本人が永年親しんできた温泉マークも新しいスタイルが追加されました。(図3)

四万温泉の足湯:新しい温泉のピクトグラムを使った外国人向けのぼり

統一スタイルと非統一スタイル

前述のように世界ではAIGAやISO等、さまざまなスタイルのピクトグラムが使われており、国際的にはISOを標準スタイルとする動きが見られます。

しかし「ことば」と同様に、ピクトグラムには国や地域の歴史、文化が強く関係しています。直感的に理解される国際共通言語として、ピクトグラムを統一することはとても重要な作業ですが、国や地域独自の歴史・文化への配慮も必要です。国際的に厳密に統一するものと、地域の個性を尊重して自由度を残すものの評価が必要です。

厳密に統一しなければならない項目は、まず生命の危険に関わる情報を伝えるピクトグラムです。JISでは「非常ボタン」や「非常口」等がこれにあたります。(図4)

もう一つはアクセシビリティーに関わる情報を伝えるピクトグラムで、「障害のある人が使える施設」や「スロープ」等がこれにあたります。(図5)

一方、地域の個性を尊重して自由度を残すものとしては「温泉」や「公園」等、観光情報を伝えるもので、地域の魅力を伝え、旅の楽しさを演出するピクトグラムです。(図6)

現在進められている改定作業では、国際的に機能するピクトグラムの一定の基準が示されました。今後はそれらのピクトグラムをどこでどのように使うか、といった使い方のルール等、運用面での国際規定づくりが望まれます。

※1 公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団は高齢者や障がい者等、体の不自由な方だけでなく、すべての人々がスムーズに移動できるような交通機関の実現、自動車からの二酸化炭素排出による地球温暖化問題の解決などを目的とした事業を進めている。
※2 American Institute of Graphic Artsは社会的な情報デザインの改善に関する取り組みを行っている米国の団体。ピクトグラムのデザインを統一することで情報格差をなくし、平等に情報が得られる為の取り組みを20世紀半ばから積極的に進めている。

ピクトグラムについての詳しい内容は以下をご覧ください。
公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団
標準案内用図記号ホームページ:http://www.ecomo.or.jp/barrierfree/pictogram/picto_top2017.html

2018.9掲載

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