ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

ご存知ですか

人権に関するさまざまな知識のコーナーです

日本初のユニバーサルシアター CINEMA Chupki TABATA

プロフィール

シネマ・チュプキ・タバタ 代表
平塚 千穂子(ひらつか ちほこ)

東京都出身。早稲田大学教育学部教育学科卒業。
2001年 ボランティア団体 City Lightsを設立し、視覚障害者の映画鑑賞環境づくりに従事。2016年、日本初のユニバーサルシアターCINEMA Chupki TABATA を設立。この功績がたたえられ、ヘレンケラー・サリバン賞を受賞。2018年 バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者 内閣府特命担当大臣表彰 優良賞受賞。2022年にはドキュメンタリー映画『こころの通訳者たち』を製作し、山路ふみ子映画賞 福祉賞。文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞(芸術振興部門)を受賞。

シネマ・チュプキ・タバタ

▲シネマ・チュプキ・タバタ

私は、目の不自由な方々と共に映画鑑賞を楽しむことのできる環境づくりに取り組むボランティア団体City-Lightsを2001年4月に設立しました。チャップリンの『街の灯』の感動を、視覚障害者にも伝えたいという無謀な試みからのスタートでしたが、思いの外、目の見えない方々が「映画を観たい」と思っていることを知り、驚くと共にカルチャーショックを受けたのがきっかけとなりました。それまで私はボランティア活動とは無縁でしたが、当時、映画館で働いており、素晴らしい映画を何本も観ることのできる環境にいました。ですから「映画を観たい」と思っているにも関わらず、諦めるしかないと思っている視覚障害者の人たちがいることを知って、何とかならないだろうか?と思ったのです。そして国内外の状況を調べてみたところ、日本では市民上映会などで、視覚障害者の「映画を観たい」という要望を受けて、音声ガイド付きの上映会が行われたケースはあったものの、商業ベースでは全く進んでいませんでした。

一方アメリカでは、100館以上の映画館に、視覚障害者が音声ガイドを聴くための赤外線ヘッドフォンの貸出があり、公開と同時に『スター・ウォーズ』や『タイタニック』等の映画を鑑賞しているという事実を知りました。「映画を楽しみたいと思っている視覚障害者は、全世界に確かに存在し、音声ガイドで映画を届けることができるのだ。ならば、それを日本でも普及させたい。まずは自分たちでできることから、やっていけばよいのでは?」と思い、ボランティア団体を設立するに至りました。

しかし、観せる前提で作られている映画を目の見えない人に言葉で届けるということは、生半可なことではありませんでした。最初は、視覚障害者のための「音声ガイド」の研究から始めました。「音声ガイド」とは、セリフの合間や場面転換の隙間に挿入するナレーションのことで、時や場所、人物の動きや表情、情景描写など、映画の視覚情報を補うものです。ガイドをする人の主観や解釈を押し付けず、見えない人の想像をサポートするツールです。「音声ガイド」は、視覚障害者の方々と意見交換しながら作るのですが、書いてわかる言葉と耳で聴いてわかる言葉の違いや、人が言葉から想像するイメージの違いについて、深く考えさせられます。私は視覚障害者の方の、音を聴いて想像する世界の奥深さに、すっかりハマってしまいました。

イヤホンのボリュームコントローラー

▲イヤホンのボリュームコントローラー



そして、活動をはじめて15年目の2016年。「障害の有無に関わらず、誰もがあたりまえに安心して映画を楽しむことができ、映画を通じて多様な人々が交流できるユニバーサルシアターを創る!」という、大きな挑戦に踏み出しました。映画館をつくるなんて一生に一度のこと。長年活動を続けてきた、視覚障害者のための音声ガイドだけでなく、聴覚に障害のある方には、日本映画にも字幕をつける、小さなお子様を連れた方や発達障害のお子様にも安心して映画を鑑賞できる完全防音の小部屋をつくる、スクリーンが見やすい位置に車椅子スペースを設置するなど、「多様なお客様が安心してくつろげるアットホームなミニシアターにしたい」という想いに、531名もの方が賛同してくださり、1,800万円以上の設立資金が集まって、日本初のユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」が誕生しました。

森の中をイメージした館内

▲森の中をイメージした館内



おかげさまで、開館から7年。障害をお持ちの方々はもちろん、ご近所の方々にもよく足をお運びいただき、常連のお客様や、サポーター会員になって支援してくださる方々、また映画関係者の方々にも応援していただき、たくさんの方々に愛される映画館に成長しました。

多様なお客様がよく訪れることで「街が優しくなった」と、商店会長さんは、なんだか誇らしげです。白杖をつきながら歩いている人を見かけると、声をかけてくれたり、商店街にあるベンチの椅子を譲ってくれたり。「あの信号、危ないから音声信号をつけるように、おまわりさんに言っておいたよ!」と声をかけてくださる方もいました。最初からまちづくりを意識して映画館をつくったわけではありませんでしたが、ユニバーサルシアターを街中につくったことで、この街の人々の、元々もっていた優しさが発揮されているように思います。

コロナ禍で、映画の配信に拍車がかかり、残念ながら閉館してしまったミニシアターも少なからずありました。当館も座席数20席という、とても小さな映画館ですので、シアターを維持していくのは大変です。しかし、ユニバーサルシアターでさまざまな方と映画を共にする体験は、とても豊かなものです。目が見えない人は、命の声をよく聴いています。耳の聴こえない人は、命の振動をよく見つめています。一方、私たちはどうでしょう? 早送りで映像をみたり、LINEをしながら映画を観たり。作品をどんどん軽く扱い、消費していないでしょうか。そんな私たちに、作品と丁寧に向き合う姿勢や想像力の尊さを教えてくれたのが、障害のある方々でした。

「チュプキ」はアイヌ語で「自然の光」。ここに訪れた皆様が、自然界のように多様な命を感じられる、豊かな時間を取り戻していただければ幸いです。
人企連広報委員会メンバー

今回、広報委員会メンバー「シネマ・チュプキ・タバタ」を訪れました。代表の平塚千穂子さんにお話を伺った後、実際に、真っ暗な画面に音声だけのバージョン、それに「音声ガイド」がついたバージョン、映像はあるけれど音声は聞こえず字幕だけのバージョンなど、多様な方法による映画鑑賞を体験しました。まさに誰もが映画を楽しむことができるユニバーサルシアターです。みなさんもぜひ一度訪れてみてください。

シネマ・チュプキ・タバタ地図


2024.4 掲載

一覧へ戻る