ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

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人権に関するさまざまな知識のコーナーです

東京ジャーミイを訪ね、イスラームを発見する

プロフィール

東京ジャーミイ・トルコ文化センター
広報出版担当
下山 茂

1949年岡山県生まれ
早稲田大学第一政経学部入学、探検部に所属し「早稲田大学第二次ナイル河全域踏査隊」の一員としてアフリカのスーダンヘ。帰国後、出版社勤務のかたわら27歳でイスラーム教徒となり、イスラームの書籍の編集・出版にも携わる。

トルコ共和国大使と見学者

ロシア革命を逃れ日本へ

渋谷区代々木上原の住宅街に日本最大級のモスクがある。
ミナレッ卜(尖塔)とたおかやなドーム屋根が特徴的なこの建物には「物語」がある。1917年、モスクワでロシア革命が起きる。革命軍によってトルコ系タタール人が迫害を受ける。イスラーム教徒である彼らは、宗教を禁止され家々に火を放たれ祖国を捨てて逃げる。トルコや中国へ、さらに一部の人たちはシベリア経由で日本にまで来る。
代々木の杜に安住の地を見つけたタタール人たちは、ラシャという洋服の布地を商って生計を立てる。そして太平洋戦争前夜ともいえる1938年5月、「東京回教礼拝堂」を開設した。
だがこの東京在住のイスラーム教徒たちの心の拠りどころとなった礼拝堂は、1986年、壁に雨水が入るようになり完全に取り壊され、48年という短い歴史の幕を閉じる。その後トルコで寄付金が集められ2000年に竣工したのが現在の「東京ジャーミイ・トルコ文化センター」である。床の大理石、装飾タイル、家具調度品など建築材料の多くがトルコ産で、トルコの職人たちが内装を施し天井や壁にアラビア語でコーランの一節を描いていった。
東京ジャーミイは外からは重厚なイメージを伝えてくるが、礼拝堂に一歩足を踏み入れ仰ぎ見ると、神が創った宇宙をイメージさせる高いドーム天井、ブルーの装飾タイル、ステンドグラスの赤や緑が壁面を織りなし、内部は繊細で壮麗なオスマン朝のモスクが再現されている。

神の前での人間の平等

東京ジャーミイという礼拝堂の「もっとも大切なものは何か」と問われれば、それは間違いなく、ミヒラーブという聖地メッカのカアバ神殿の方角を示す壁の凹みである。イスラーム教徒は必ずこの方角に向かって礼拝に立つ。
ことにモスクでの集団礼拝は横一列に並び、縦には並ばない。縦とはすなわち序列、横は対等を表す。イスラーム教徒にとって序列は、唯一、神アッラーが上、人間が下となる。そして信者同士は肩と肩が触れ合うくらいに皮膚の色(人種)、民族、国籍、貧富の差、社会的肩書きを超えて横一列に並ぶ。
2015年10月トルコからエルドアン大統領が来日し、日没の礼拝に参列したときにも大統領は運転手、ガードマンたちと並んで礼拝を捧げた。そこには「神の前での人間の平等」というメッセージがこめられている。
またイスラーム教徒は一日五回礼拝に立つことはよく知られている。五回という回数が多いと思う人が少なくない。だがこの礼拝の回数と時間は食事の時間とよく似ている。朝、昼、晩、そこに午後三時のおやつ、夜食を加えれば五回となる。人が生きていくために食事から得る栄養やエネルギー源は不可欠である。食事から得る糧が体にとって不可欠ならば、イスラームの礼拝は「心の糧」となっているのである。

東京ジャーミイ外観

東京ジャーミイ礼拝堂

チューリップとイスラーム文明

東京ジャーミイの壁面にはチューリップの花がたくさん描かれている。日本人はチューリップと聞くとすぐ「オランダの花」と言う。だが、それは間違い、チューリップはトルコの花なのである。
チューリップは16世紀末、植物学者によってトルコからヨ ーロッパに紹介される。持ち込まれた球根が芽を吹き、咲いた花はヨーロッパ人が見たことがない見事な花であった。そしてチューリップの球根の争奪戦が始まる。投機の対象となり、チューリップの球根数キロと馬車・馬具一式、さらに馬一頭が等価で取引されるほど高騰>したこともある。まさに「チューリップバブル」である。「これは商売になる」と目をつけたのがオランダ。オランダ人はイスラーム世界の花の品種改良に乗り出し、それが日本にも上陸してくる。
イスラーム文明によって生み出され現代の生活に欠かせないものも多>々あるのだが、意外なものがある。医学(血液の循環の発見)、機械工学(カメラの原型の発明)など自然科学の分野に多いのだが、数学の分野の一例を挙げてみよう。
数字は現在日本に三種類ある。漢数字、ローマ数字、そして洋数字である。洋数字はアラビア数字>とも言う。漢数字とローマ数字は桁が多くなると表記が長くなるが、インド起源の「0」を含むアラビア数字は簡明で実用性に優れ、世界標準となっている。そのほかコーヒー、ソファー、アルカリ、マガジン、オレンジ、カメラ、すべてアラビア語を語源とする単語でチュー リップや数字と同じようにヨーロッパ経由で日本にきている。イスラームという宗教は砂漠の宗教で文明と無縁というのは間違いなのである。

金曜礼拝

イスラーム教徒は隣人

イスラーム教は今、教徒が16億人とキリスト教徒22億人に次ぐ世界宗教である。今世紀半ばにはイスラーム教徒はキリスト教徒を抜いて世界一になるというアメリカのシンクタンクの予測もある。また近年、利子ではなく投資によって運営するイスラーム金融が 注目を集め、日本の大手銀行などの参入が相次いでいる。イスラーム教徒の6割はアジアにいて、世界最大のイスラーム教徒の国は2億人の人口を抱えるインドネシアである。東京ジャーミイにも毎日のようにインドネシア、マレーシアなどからのイスラーム教徒を乗せたバス>が横づけになる。もはやイスラーム教は遠いアラブの宗教ではなくアジアの宗教であり、イスラーム教徒は日本にとって隣人なのである。
東京ジャーミイでイスラームのアートに触れ、イスラームを発見してみませんか。
東京ジャーミイへのアクセス

電車
●新宿から小田急線代々木上原駅下車、井の頭通りに出て小田急線の高架下を通り徒歩5分
●渋谷から地下鉄半蔵門線(銀座線)表参道駅乗り換え、千代田線で代々木上原駅下車、井の頭通りに出て小田急線の高架下を通り徒歩5分

東京ジャーミイ・トルコ文化センター
〒151-0065東京都渋谷区大山町1-19
Tel:03-5790-0760 Fax:03-5790-7822
URL:https://tokyocamii.org/ja/

2018.10掲載

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