ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

クローズアップ

有識者から当会広報誌「明日へ」に寄稿していただいた記事の転載です

野島卓郎:高齢者の社会参加によりすべての世代の尊厳を守る
地域での役割を見つけ、地域で、いつまでも、支える側にいよう!

プロフィール

野島 卓郎(のじま たくろう)

東京海上日動火災保険(株)経営企画部CSR室から公益財団法人さわやか福祉財団に出向。(出向中に定年退職)

私は、高齢社会NGO連携協議会(共同代表・樋口恵子、堀田力)の事務局長として、参加団体との連携により、高齢者の多様な社会活動の促進に取り組んでいます。また、さわやか福祉財団(堀田力会長)のボランティア職員として、ワーク・ライフ・バランスのため、サラリーマンの現役時代と退職後の社会参加を推進する事業に携わっております。
学者でも専門家でもなく、定年退職間際に、縁あって社会福祉の世界で仕事をすることになった企業出身者であり、「一市民」です。
「人生90年」と言われる超高齢社会に向けて、定年退職間近の方をはじめ、現役の皆さまの長い人生の将来に向け、地域で暮らす上でのお役に立てるような情報を提供させていただきます。
なお、「人権」がテーマではありますが、福祉の世界で使われることの多い「尊厳」と読み替え、「高齢者の社会参加により、すべての世代の尊厳を守る」という観点で、情報提供をさせていただきます。

人権と尊厳

1991(平成3)年の国連総会で「高齢者のための国連原則」が採択されました。それは、高齢者の「自立」「参加」「ケア」「自己実現」「尊厳」の実現で、高齢者5原則と言われています。この中に「尊厳」という言葉が出てきます。
私の父は、晩年、介護施設に入所していました。私は、転勤族で東京から離れて住んでいましたので、そばに住んでいた姉に父の世話を任せておりました。ある時、東京に出張する機会があり、父を訪ねた際に、父の様子を見て突然「尊厳」という言葉が頭の中に飛び込んできました。施設の食堂兼談話室では、丸い大きなテーブルを囲んで、高齢の男女が懐メロを歌ったり、賑やかに談笑しています。父は、離れて一人車椅子に座り窓の外を見ています。
その姿を見て父の「尊厳」が守られていないと。
個人の尊厳は、「民主主義の基本原理であり、その思想こそが近代憲法の基本的人権を生み出す原動力である」と、若い頃に何かの本で読んだ事があります。 ほぼ人権とイコールなのかも知れませんが、もっと深く個人の意思を尊重する意味合いが含まれているように思います。そして、福祉の世界では、人権という言葉を使わずに「尊厳」という言葉を使う事が多いようです。「尊厳」は、物心付いた子どもから高齢者まで、すべての世代の人々がもっている個人独自の価値ということなのでしょう。
そして、人権尊重と言うより、「尊厳尊重」という言葉をいつも見えるところに掲示しておけば、(みんなが意識をもっていれば)、子ども、障がい者、高齢者等への虐待、パワハラ、セクハラ等が起こらず、これからのダイバーシティー経営にもつながるのかも知れません。
1992(平成4)年の国連総会では、国際行動計画や、この国連原則普及のために1999(平成11)年を「国際高齢者年」とする決議がなされました。
この「国際高齢者年」に備えて、その前年1998(平成10)年に高齢社会の課題に積極的に取り組む事を目的とした民間団体として、「高齢社会NGO連携協議会」がスタートしました。
当初は、「高齢者年NGO連絡協議会」とまさに「国際高齢者年」に対応する名称でしたが、後に、高齢化が多分野・多世代に関係する問題であることから「高齢社会NGO連携協議会」(以降「高連協」)と名称変更し、現在に至っています。

尊厳を取り戻す

ある終末期ケアの施設を訪問した際に聞いた話で、「紙おむつを取ってあげると、『尊厳』を取り戻す」というお話しです。
高齢者施設では、往々にして、入所者に「紙おむつ」をつけて貰う事があります。人手も足りないのでやむを得ずです。
一方、この施設では、病院や、介護施設から移ってきた方に対して、最初にすることが、「紙おむつ」を、はずしてあげる事だそうです。入所者が少ないこともあり、個々の方たちをじっくり観察していると、トイレのタイミングが分かるので、都度、連れていってあげるのだそうです。すると、入所者の意識、あきらめていた意識、が元に戻り、まさに「尊厳」を取り戻すのだそうです。
ケアの基本は、個々の入所者の「尊厳」を守り、その方の残存能力を最大限生かし、自立のお手伝いする事です、というお話しでした。
一方、知的障がい児を預かる施設の施設長のお話しです。
この施設では、新しく入ったスタッフに、まず、「紙おむつ」体験をしてもらい、「紙おむつ」がどんなに気持ちの悪いものかを体験してもらうためだそうです。
バス旅行に連れ出す等、やむを得ない時以外は、「紙おむつ」の使用をしていないそうです。

人生90年の時代に生きる

内閣府の2016(平成28)年版「高齢社会白書」によると、2014(平成26)年の平均寿命は、男性80.50年、女性86.83年で、将来、2060(平成72)年の平均寿命は男性84.19年、女性90.93年という推計が出ています。いよいよ「人生90年の時代」が到来します(図1)。

将来の平均寿命は男性84.19年、女性90.93年

一方、2016(平成28)年7月27日に厚労省が発表した「2015(平成27)年の簡易生命表の概況」(図2)によると、平均寿命は、男性80.79年、女性87.05年となっており、前年との差が、男性0.29年、女性0.22年と確実に平均寿命が延びています。

主な年齢の平均余命

平均寿命とは、その年に生まれた0歳児の平均余命です。そこで、0歳児の死亡率が高い時代には、平均寿命が短く、死亡率が低くなると平均寿命が長くなります。但し、この平均寿命の計算には、期待値も含まれているようですので、あくまで目安と考えた方が良いようです。
さて、私が生まれた1950(昭和25)年の平均寿命が、男性58.00年、女性が61.50年でした(図1)。
この当時は、「人生60年の時代」でした。今年、私は既に66歳を迎え、当時推定された男性の平均寿命を超えました。それでは、私は何歳まで生きると推測できるか、図2によると、昨年の男性65歳の平均余命は、19.46年ですので、65+19.46=84.46年となります。84歳まで生きる可能性が高くなっています。
この平均余命も毎年延びていますので、もっと長生きする可能性があります。
長生きは太古より人類の夢でしたが、まさか、「人生90年」の時代が到来するとは思っていませんでしたので、その事を想定した生き方の準備などしてこなかったのが実情です。

皆さんはいかがでしょうか。
私は、1974(昭和49)年4月に入社、完全定年退職が、2015(平成27)年9月末でしたので、41年半の会社人生でした。これからの20〜30年は、かつての「人生60年の時代」のような、老後(悠々自適)と呼ぶには長すぎる期間を過ごすことになります。
生まれてから学校を卒業するまでが「第一の人生」、会社生活が「第二の人生」とすると、定年退職後は「第三の人生」と呼んでもいいかも知れません。この「第三の人生」を、自分らしく生きるためには、定年直前に考えるのでは遅いかも知れません。遅くとも40代から準備する事が必要かも知れません。「第三の人生」を自分らしく、「尊厳」「生きがい」を持って生き抜くためには、地域社会での役割を持つこと(社会参加・社会貢献)が一番です。「地域で育ち、会社で育ち、そして地域に貢献する」という人生設計です。
そして、そのためには、いつまでも健康であること。暴飲暴食をしない事はもちろんですが、健康を維持する努力は、「第一の人生」の頃から始める必要があったと痛感しています。

福祉の世界に飛び込んで

語弊があるようには思いますが、あえて言うと、企業では、いわば時間当たりの生産性が求められますが、地域社会では、赤ん坊から、高齢者まで、同じ価値を持っているということになります。
いわば、赤ん坊の1時間も、認知症高齢者の1時間も同じ価値があるという事になります。
ちょっとイメージしてみて下さい。
例えば、介護付有料老人ホームに、赤ちゃんを連れていったとします。すると、赤ちゃんが、施設に入るだけで、その施設が一遍に明るくなります。
まず、スタッフの皆さんの目が輝き、「わぁ可愛い!」と大喜びし、赤ちゃんの周りに集まります。もちろん、入所者のお爺さん、お婆さんも、満面の笑顔になり、その瞬間、元気になります。
ここでは、赤ちゃんは、大きな価値を生み出します。私の一時間より、はるかに価値があると思います。
この一瞬に立ち会うと、高齢者だけの世界がいかに寂しい世界であるかを痛感します。
そして、こうした施設の中だけではなく、地域の中でも、同じ事が言えます。人間は、本来、多世代が一緒に生活するものでしょう。
さわやか福祉財団には、〝さわやかスポーツ広場〞という事業があります。例えば、サッカー広場です。
Jリーグのご協力を得て、J2リーガーと、地域のサッカーチームの少年・少女が一緒に、老人施設を訪問します。すると、大勢のお爺さん、お婆さんが集まります。そこで、子どもたちが、サッカーボールを使った練習を行います。また、危険のない紙風船を使い、一緒にお爺さん、お婆さんと遊びます。
この時、あるお婆さんが「子どもたちに来て貰って嬉しい。でも、その子どもたちに、お礼に何かしてあげることができなくて情けない」と。
そこで、事前にお爺さん、お婆さんに、「皆さんからの子どもたちへのプレゼントは、笑顔で、手をたたき、喜んであげる事です。そして、褒めてあげて下さい。それだけで、子どもたちは、喜びと勇気と元気を貰えるんですから」と、一声かけておきます。

サッカー広場にて子どもたちとの交流

縦社会と横社会

定年退職後の地域デビューには、事前準備が必要です。
企業では、職制でリードされて仕事をする縦社会ですが、地域ではフラットな横社会と言えるでしょう。
縦社会から横社会へ地域デビューする際に、特に男性の場合ですが、学歴、企業での役職(肩書)、そして企業での自慢ばなしや、ちょっと上から目線的な姿勢やものの言い方は、とても嫌われます。
例えば、女性の場合は、気楽に集まってくれる場合が多いようですが、男性の場合は、「何で集まらなくてはならないのか」(目的を明確にせよ)、「何をやらせようとしているのか」(やる事を明確にせよ)、「その上で、参加するかどうか考えるから」という事なのでしょうか、なかなか集まらない傾向があるようです。
そういう意味では、企業人が地域デビューするには、縦社会から横社会への意識の変革が必須のようです。
私の場合は、たまたま、社命で公益財団法人さわやか福祉財団に出向しましたので、当初、少々戸惑いましたが、比較的スムーズに意識転換ができたように思います。
先日、とある市民向けフォーラムで、「定年退職後、地域の役に立たない男性企業退職者」たちの事を、「粗大ゴミ」「産業廃棄物」と呼び、企業にはそうした退職者を創り出した製造物責任があり、退職前に地域で役立つ人材にリサイクルした上で、定年退職させるべきだ、といった発言をされていた講師がいました。企業を退職してみると、その意味が良く分かります。
そこで、高連協でも、そうした出前講座をつくり、企業に提案しようという声もあがっています。
退職前研修を行っている企業は多いと思いますが、どちらかというと、退職時の諸手続きであったり、年金、社会保険料の説明等々や、ファイナンシャルプランナーのお話しで終わっているケースが多いと思われます。
そこで、このような、退職前研修で、時間を割いていただいて、地域デビューのためのコツなど、情報提供させていただくイメージの講座です。

企業の社会貢献としての地域づくりへの参加

先ずは、認知症サポーター養成講座です。
昨年、公益財団法人さわやか福祉財団で会員企業の皆さま向けに「介護離職」をテーマにセミナーを開催しました。参加いただいたのは、25社ほどでしたが、「認知症」のことを良く知ってもらうためです。
一方、参加いただいた企業に、認知症サポーター養成講座を、全従業員に受けていただくための提案をしています。その中で渋谷区に本社を置くある企業が、関心を持たれましたので、渋谷区に依頼し、出前講座をしてもらいました。
企業によっては、社内に認知症キャラバンメイトを配置して、社員向けの認知症サポーター養成講座を実施しているところがあると思いますが、あえて渋谷区にお願いしたのは、地元の実情と地元の認知症対策等をお話ししてもらうためでした。(養成講座90分、地域の実情説明等30分の2時間コース)
このケースでは、勤務時間中に実施されましたので、途中の出入りも多かったのですが、延べ70名程の参加がありました。そのアンケートによると、「認知症が病気であることが分かりました」「もっと親にやさしくしてあげたいと思います」「他の人にも聞かせたかった」「従業員全員が受けるべきだと思います」等々、大変好評でした。講師を務めていただいた渋谷区の職員は、企業に出前講習するのは初めてのことで、「最初は緊張しましたが、皆さんが熱心に参加して下さり、手ごたえのある、いい経験をさせていただきました。」と喜んでいました。
この取り組みは、市区町村の職員と接触をめったに持つことのない中、企業と行政との地域づくりの協働の第一歩になるものと思います。
ちなみに、国の目標は認知症サポーター800万人です。最終目標はというと、国民全員ということでしょう。仮に全国民が認知症サポーターになると、地域が劇的に変わる。
いくつになっても、認知症になっても地域で安心して暮らせる、素敵な社会になると思います。
また、都道府県市区町村では、企業との間で「見守り協定」を結ぶ取り組みも進んでいます。こうした取り組みに参加することによって、社会福祉の観点で地域とのつながりを持つことを始められてはいかがでしょうか。
地域では、高いノウハウを持つ、現役と退職者の社会貢献活動に大きな期待を寄せています。
現役と定年退職者の地域での活躍の場づくりを応援して下さい。

2017.2掲載

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