ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

クローズアップ

有識者から当会広報誌「明日へ」に寄稿していただいた記事の転載です

樋口恵子・堀田力:高齢者の社会参加によりすべての世代の尊厳を守る

プロフィール

樋口 恵子(ひぐち けいこ)

評論家、東京家政大学名誉教授、同大学女性未来研究所長他
著書:「おひとりシニアのよろず人生相談」(主婦の友社)「人生100年時代への船出」(ミネルヴァ書房)など

プロフィール

堀田 力(ほった つとむ)

弁護士、全国遺贈寄付(レガシーギフト)推進検討委員長他
著書:「おごるな上司!」(日経ビジネス人文庫)、「第二の人生、勝負の時である。」(海竜社)、「私たちが描く新地域支援事業の姿~地域で助け合いを広める鍵と方策~」(中央法規) など

樋口恵子氏寄稿
一見みんな元気そうであっても、今の家族は実に脆いのです。その家族に出産・育児・介護などのライフイベントが起こると、たちまち危機に瀕してしまいます。理由は簡単、少子高齢化という人口構造の変化が本格化し、いよいよ私の言うファミレス(family-less)社会に突入したからです。
今の中堅社員の親である団塊の世代までは、きょうだいが平均4人近くいて、その一世代前はさらに大勢いました。一家に出産があったり病人が出たりすると、母・姑は言うに及ばず、姉妹、おば、いとこなど一族の女手がわっと助っ人に来てくれました。「まさかの時は身内の女」ということわざまであります。日本男性たちが諸外国の男性以上に長時間働き仕事一筋に生きられたのは、家族的イベントを支える「身内の女」というまずは無給のケア資源があったことを忘れてはなりません。
それがまあ、今の50代から下は、きょうだいは2人、その上男の4人に1人、女の9人に1人は結婚していません。しかも時代はグローバル化し、親子きょうだいで勤務地が違い、家族のサイズは小さくなる一方です。
最近ある大病院で、初の育休取得者、という30代後半の医師の話を聞きました。全国の模範とされる、ということは働く側にとっては厳しい病院です。それまで女性看護師は育休を取っても、男性が取る環境ではありませんでした。でも出産に引き続いて妻は長引く病気となり、手伝いに来ていた実家の母は過労で倒れ、夫である医師が育休を取らざるを得なくなったのです。
今は復職できましたが、彼が「こういう経験をしておくと、もっと年を取ってからの介護にきっと役立つ」と言ったのが印象的でした。その席にはこの医師の上司もいたので、私は「こういう経験をした医師はきっと患者さんの役に立ちます。絶対左遷なんかしないでください」とお願いしておきました。
イケメンよりもイクメン、と言われるようになりました。さらに近頃はイクボスが注目されています。男女を問わず育児と仕事が両立できるよう配慮する上司のことです。
深刻な人口構造の大変化を思うと、私はまもなく「イクボスでないと重役になれない」という日が来ることを確信しています。
堀田力氏寄稿
「セクハラはいけない」「パワハラもいけない」「男女で差別してはいけない」イケナイづくしの人権尊重を、消極的人権尊重という。これが人権尊重の主流である。
「もっと楽しく仕事をしてもらおう」-本人の能力をさらに高め、いきいきと仕事をする環境をつくろうとアプローチするのを積極的人権尊重という。積極的人権尊重で仕事をしていると、消極的人権尊重は意識しなくても実現しているというのが本稿で私が言いたいことである。20年前、700万部買っていただいた拙著「おごるな上司!」もこの精神で書いたものである。
男性職員の本音で言えば、職場の女性職員には、上司であれ部下であれ他のセクションの人であれ、女性の魅力ムンムンの人もいればその真逆の人もいる(女性職員が「アラ、今度来た職員、イケメン!」とか、「期待はずれ」とか思うのと同じである)。
そういう時、「わが職場を楽しく仕事する場にしたい」という意識がなければ、男の感覚がそのまま出て、ろくな関係にならない。「ほめるのはいいこと」と思っている男性もいるが、職場でほめるなら職員としての能力に限る。女性としての魅力をほめると、そのうち、あちこちでろくでもないことが起きる。「同じ職場で頑張っている仲間だ」という意識に絞っていけば、そう苦労しないで相手を「職場の仲間」と認識し、そのように接することができるようになる。パワハラ、モラハラ、マタハラその他さまざまなハラについても同じである。
とはいえ、人権尊重は、職員に仏様のようにふるまうことを求めるものではない。職場では、仕事に徹しようというだけのことである。
そのように前向きに仕事を楽しむ人は、仕事以外のことにも前向きになる。社会参加を楽しんで、クオリティ・オブ・ライフを高めるのも、そういう生き方をしている人たちである。

2017.2掲載

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