ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

クローズアップ

有識者から当会広報誌「明日へ」に寄稿していただいた記事の転載です

井田朋宏:パラスポーツの魅力と可能性

プロフィール

井田 朋宏(いだ ともひろ)

962年愛知県生まれ。大学卒業後、東京都多摩障害者スポーツセンター及び東京都障害者総合スポーツセンターの指導員として勤務。1994年雑誌編集者に転身、障がい者スポーツ専門誌『アクティブジャパン』副編集長、『パラリンピックマガジン』編集長。
2007年より現職。広報・マーケティング部門を担当。 元日本身体障害者陸上競技連盟強化部長。1988年・1992年パラリンピック陸上競技日本代表コーチ、2000年シドニーパラリンピック陸上競技日本代表監督。公認上級障がい者スポーツ指導員。

はじめに

1964年、東京でオリンピックが開催されたことは皆さんご存知かと思いますが、そのあとに、同じく東京でパラリンピックが開催されたことはご存知でしょうか?当協会(JPSA)は、その東京パラリンピックをきっかけに、日本のパラスポーツ(障がいのある人々のスポーツ活動全般を指す言葉です)の統括団体として設立され、パラスポーツの普及を担ってきました。また、1998年に開催された長野冬季パラリンピックをきっかけに、JPSAの内部組織として日本パラリンピック委員会(JPC)を設立し、組織的な選手強化に取り組むようになりました。すなわち、2つのパラリンピックの自国開催を通して日本のパラスポーツを大きく発展させてきました。

2020年、再び東京でパラリンピックが開催されます。この大会をきっかけに、今度はどんな変革を起こしていけるのでしょうか?本稿では、パラスポーツの魅力や特徴をお伝えするとともに、私たちがパラスポーツを通してめざしている将来像(ビジョン)についてもご紹介させていただきたいと思います。

数えるべきは、できないことではなく、できること

「It’s ability and not disability that counts.」。この言葉は、第2次世界大戦後に国連が発表した「障がい者哲学」の一節として紹介されたもので、「数えるべきは、できないことではなく、できることである」という意味です。すなわち、「何ができないかではなく、どうやったらできるか」の視点で何事もあきらめずに困難に立ち向かうことの大切さを説いたもので、パラスポーツの特徴をよく表している言葉です。以下に、パラスポーツの特徴として具体例を3つご紹介します。

(1)マラソンやトラック競技用の車いす

写真(1)は、マラソンやトラック競技で用いられる車いすで全長が長いのが特徴です。ひとこぎでの推進力が大きくなるように設計されています(男子のフルマラソンの世界記録は1時間20分台です)。写真(2)は、車椅子バスケットボール用の車いすです。ひとこぎ目のダッシュ力や回転性を重視した形状になっています。写真(3)は、ランニング用の義足です。足部がカーボンでできていて、着地したときの反発力を活かして走ることができるようになっています。

(2)車椅子バスケットボール用の車いす

(3)ランニング用の義足

(4)視覚障がい選手は伴走者と共に走ることが認められている

(5)視覚障がいスイマーに壁が近づいていることを専用棒で伝える

多様性を認め合える インクルーシブな共生社会を実現

日本の障がい者スポーツの将来像(ビジョン)
右図は、私たちが2013年に発表したビジョンを表しています。ビジョンのめざすところは、障がいのある人が、障がいのない人と同じようにスポーツを楽しめるようにする普及・拡大と、世界トップレベルの競技力向上をバランスよく進め、多様性を認め合えるインクルーシブな共生社会を実現することです。競技力向上については、メダル獲得目標を明確にし、そのための具体的な戦略を立てて進めることにより実現していきたいと思います。普及拡大については、パラスポーツファン作りとともに、障がいのある人が身近な地域で気軽にスポーツに参加できるようにする必要があります。これにはスポーツ施設のソフト・ハード両面のバリアフリー化はもとより、誰もが快適な生活を送ることができる街づくりや、多様性に配慮した空間づくりなども含まれます。国をはじめ、産業界や経済界の協力が不可欠ですし、オールジャパンで取り組むことが必要です。

日本は、2060年には人口の25%が75歳以上になるといわれています。年をとれば誰もが、どこかに多少の障がいが出てきます。多様性を包容した共生社会にしていくことは、一部の障がいのある人達のためではなく、私達自身の未来のためです。そういう意味でも東京2020パラリンピックの開催は社会を変革する大きなチャンスです。東京2020パラリンピックを成功させ、さらにパラリンピックの成功を起爆剤にして、ビジョン実現を加速させたいと思います。

2016.10掲載

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