ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

クローズアップ

有識者から当会広報誌「明日へ」に寄稿していただいた記事の転載です

竹之内幸子:男女脳差理解による ダイバーシティコミュニケーション

プロフィール

竹之内 幸子(たけのうち ゆきこ)

大学卒業後、石油元売り会社に入社、マーケティング・販売促進・営業・CS向上などに従事
結婚後、出産→育児の最中は、中小企業で経理・財務分野でアカウンティング業務を経験し、その後、営業支援会社で中小企業の営業支援コンサルタントとして全国300社のクライアントの課題解決に携わる
2007年、研修会社で人財育成コンサルタントを務め、2012年8月独立、株式会社Woomaxを設立
官公庁・企業で「女性リーダー研修」「管理職向けダイバーシティコミュニケーション研修」「育休前研修」など多くの講座を受け持つ
2015年6月 株式会社アイネット(東証第一部)社外取締役就任

組織に多様性を活かす必要性について

これまでは、企業の労働力を主に「日本人」「男性」「総合職」という同じような属性で構成することができた。同じ属性同士であるゆえ に、社内のコミュニケーションは取りやすく、あうんの呼吸で物事は進んだ。ひとつの目的に向かって組織をまとめ、まい進するためには効率も生産性も良いと言える。
しかし、労働力人口減少の問題だけでなく、市場の変化やIT革命により、既に組織の構成は、外国人、女性、シニア、障がい者、契約社員など、多様性を内包しているのが現状だ。これは必然的に、あうんで通じることが少なくなるということだ。異質な価値観を持つ個々がコミュニケーションするとき「当たり前」は存在せず、ひとつひとつ衝突や緊張があるであろう。ただ、この衝突や緊張を繰り返しながら、影響しあい、新しい考え方、新たな価値観を生み出している。
いつまでも「昔は良かった」と言っているのではなく「違いがあるのは当たり前」「衝突があるのは当たり前」「あうんの呼吸は通用しない」と考える人材が必要になっている。組織が進化し成長し続けるためには、違いを知り、理解し、ダイバーシティコミュニケーションを実践することが必要なのである。
では、違いを理解し、ダイバーシティコミュニケーションを意識すると、どのような効果があるだろうか。例えば大手電機メーカーの「-7℃のチルド室」。かつての冷凍冷蔵庫は、すでに成熟商品で「いかに早く凍らせ、いかに長く鮮度を保つか」を揺るがぬ価値として開発を競っていたが、コチコチに凍った食品を解凍するのは手間がかかるし、ムラも出る。仕事も家事も両方担当しなくてはならない人には、「長持ちする」というメリットよりも、「すぐに調理ができる」というメリットの方が魅力的だろう。
このアイデアは当初、上層部に理解されず、反対もされたが、女性開発者は諦めることなく、社内の仲間を増やし、実際の市場(ユーザ)の声を集めて、決裁を取った。結果はご存知のとおり大ヒット。ここでポイントなのは、「忙しい消費者のための〈時間を提供する家電〉」という新しい価値を示したということだ。もし、従来通りの価値観に疑いを持たない同じ属性の開発者だけだったら、「-7℃のチルド室」は生まれなかったかもしれない。
これは、BtoC商売だけに限らない。どのような業種業態にも当てはまることだ。組織内が同じ属性ばかりでは、意見も画一的になりがちだが、異なる視点が加わることで新しい価値が生まれる。こうした声をキチンと聞ける態勢にあるかどうか、社内を見渡してほしい。
「違いなんてない」ではなく、「違いを知るのが面白い」と言える文化をつくることが大切である。「違いに気付く」→「違いを認める」→「価値創造」というステップを経て、多様性が組織に活かされる。

(注) 労働力率:15歳以上人口に占める労働力人口の割合のことをいう。

それぞれの仕事価値観の特徴を理解しよう

さて、身近にある属性の違いの一つ(男女)の特性について考えてみたい。職場(チーム・上司)で見れば、男性と女性では価値観が異なり、お互いを理解できないことから始まる意見の対立が起こることも少なくない。この対立を安易に回避するのではなく、さまざまな意見を検討し多面的に考えることで、新しいアイデアや提案が生まれ、強くて柔軟な組織を作ることが可能になる。
この違いについては、あくまでも「個性」や「個人の違い」が基本である。しかし、比較的男性に多い傾向・比較的女性に多い傾向というそれぞれの〈集団的傾向〉として把握しておくと、違いを知り理解するのに有効だと考える。繰り返しになるが、「男性とはこういうもの」「女性とはこういうもの」というレッテルを貼るものではないことを念頭に図2を見てほしい。

たとえば、女性部下が「このような問題があり困っています」と伝えたとする。男性上司は「なぜ問題が発生したか、どのように解決すればよいか」に意識が向くが、女性部下は「問題に困っているという自分の感情(状況)を理解してほしい」ことが中心で「解決はあとで自分でできる」と思っていることもあるのだ。
こういうケースでは「なるほど、そのような問題があるんだ、それは(貴方も)困っちゃうよね」と受け止め、「何か手伝おうか?」と聞いてほしい。一概には言えないが、多くの場合は共感があれば解決するだろう。

ここで簡単にその人がもつ価値観がわかるチェック表をご紹介する。下のチェック項目で、自分に当てはまる項目の□欄をチェックし、次ページ 図3(記入例)を参考に、それぞれいくつ当てはまったかを図4に実際に記入してみてほしい。
チェック項目
1.「成果」に関するチェック
□報告をするときは、過程よりも結論を重視する
□結果が出なければ、その仕事には価値がない
□買い物は、目的のものを買えればそれでよい

2.「プロセス」に関するチェック
□仕事では結果を出すことも大切だが、努力した過程のほうが重要だ
□仕事をする過程の「質」を意識している
□欲しかったものが売り切れていても、買い物は楽しい

3.「支配」に関するチェック
□同期よりも先に出世したいと思う
□仲間と一緒に仕事をするより、部下を従えて仕事をするほうに魅力を感じる
□何事も、勝たなければ意味がない

4.「共存」に関するチェック
□仲間と一緒に、協力し合いながら仕事をするのが好き
□結束力の強いチームで仕事に向かうことが楽しく、達成感にもつながる
□チーム内に、トラブルに遭っている人や困っている人がいれば、積極的に助けてあげたい

5.「モノ(内容)」に関するチェック
□職場では、働きやすい環境よりも、仕事の内容にやりがいを感じられるかが大切だ
□発言者よりも、発言の内容が重要だ
□何かを購入するときは、店員の人柄には左右されず、機能や内容だけで決める

6.「ヒト」に関するチェック
□仕事の内容よりも、人間関係を優先して行動する
□営業担当に必要なのは、商品の専門知識よりも人柄だ
□発言内容も大切だが、発言者の信頼性を重視する

7.「理性」に関するチェック
□仕事では、うまく感情をコントロールできていると思う
□仕事に感情を持ち込むのは禁物。論理的に進めるべきだ
□「何を考えているのかわからない」と言われたことがある

8.「感情」に関するチェック
□仕事では、感情豊かに表現しているので、親近感を抱いてもらっている
□仕事では論理やルールも大切だが、ときには直観を優先するべきだ
□「裏表のない性格だよね」と言われたことがある

9.「データ」に関する項目
□わからないことは、自分で情報を調べる
□数字がしっかりと書かれた目標のほうが、わかりやすくてよい
□相手を説得するときには、数字やデータが不可欠だ

10.「イメージ」に関する項目
□目標を達成したときを想像すると、やる気が出てくる
□イメージをふくらませて、アイデアを出すことが得意だ
□相手を説得するときは、イメージで全体像を伝えたほうが理解してくれると思う

11.「客観」に関する項目
□トラブルが発生したときは、状況を客観的に判断することができる
□職場では、他人の視線を意識しながら行動している
□一般論を中心に話したほうが、ビジネスでは有効だ

12.「主観」に関する項目
□他人の気持ちを、自分のことに置き換えて考えられる
□他人の評価を気にせずに、自分の基準で行動している
□一般論よりも自分の感覚を重視するほうが、ビジネスでは有効だ
図3
図4

自分が「普通はこっちだろう」と思ってチェックした価値観と、逆の価値観を、「こっちが普通」と思ってチェックする人もいる。価値観に優劣はなく、それぞれの特徴をよく読めば、相手が大切に思う要素を理解できる。ただし、組織においては何でも尊重し合えばいいというものではない。例えば、年度末まであとわずかな期間で目標を達成しようとするときには、「成果」を前面に出す必要があるだろうし、新人教育では「プロセス」重視といったように、目的や場面によって、それにふさわしい価値観を持つ人を起用して、組織を運営することを意識したい。

また、先述の仕事価値観は役割や経験によって可変するものだが、「男性と女性の脳には、解剖学的な違いがある」とも言われている。物事を「感じる役割の右脳」と感じたことを「言語化する役割の左脳」をつないでいる脳梁という部位が、男性より女性の方が厚いそうだ。なので、感じたことをすぐに言語化している様が「おしゃべり」のように見えるのである。また、「女性はすぐ泣く」とか、「過去のトラブルをため込みがち」とかいった現象も、医学的な見地からある程度説明できるので、知っておくと役に立つ。以下の書籍が参考になる。

『男が学ぶ「女脳」の医学』(米山公啓、ちくま新書)
『キレる女 懲りない男』(黒川伊保子、ちくま新書)
『男はなぜ急に女にフラれるのか?』(姫野友美、角川oneテーマ21新書)

先日もある管理職研修で、「女性が泣くのは卑怯だと思っていた」という意見があり、「脳の特性の違いなら、と納得した。目から鱗だ」という感想をいただいた。私は、よくこう伝えている。「悔しい、悲しいと感じた瞬間、泣いてしまうのは生理現象。コントロールしづらい面もあるが、泣いた後の振る舞いは自律出来る」。詳しくは拙著『思い通りの人生に変わる女子の仕事術』(ダイヤモンド社)も読んでいただきたい。

最後のまとめとして、繰り返しになるが、男性脳・女性脳、どちらの特性も組織にとって大事であること。お互いの違いを理解し、目的や場面によって価値観をスイッチオンしたりオフに出来る「ハイブリッド脳」を意識し、より良い組織づくりのための「ダイバーシティコミュニケーション」を実践してほしい。

2016.8掲載

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