大久保貴世:インターネットと人権侵害(最終回)
プロフィール
一般財団法人インターネット協会 主幹研究員
大久保 貴世(おおくぼ たかよ)
インターネットのルール&マナーの啓発、トラブル相談、インターネット利用アドバイザーの育成、教育テレビ出演など
海外での動き
視点を変えて、海外と日本を比較してみよう。アメリカの「ノーティスアンドテイクダウン」
アメリカの「デジタルミレニアム著作権法」では、プロバイダは著作権者からコンテンツの著作権侵害を通告された場合に、まずは、当該コンテンツを削除した上で、発信者へ削除した旨を通知する。発信者が削除について異議申し立てを行った場合、著作権者へ異議申し立てがあった旨を連絡し、反論がなければ復活させるという、「ノーティスアンドテイクダウン」という考え方がある。一方、日本の「プロバイダ責任制限法」では、著作権侵害、名誉毀損、プライバシー侵害の通告があった場合、プロバイダは通告があった旨を発信者へ連絡し、7日を経過しても異議申し立てがなければ、当該コンテンツを削除してもプロバイダの責任は問われない。
アメリカはまずは書き込みを削除した後、反論がなければ復活し、日本はすぐには削除せず所定期間を待ってから削除する。日本とアメリカでは手続きの順番が逆になっている。皆さまどう思われるだろうか。
欧州連合の「忘れられる権利」
インターネットに拡散した情報を本人が削除要求できるのが「忘れられる権利」。インターネットがなければ知られなかったことが、インターネットに記録したままになっている。2012年1月、欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会はインターネット上の個人情報保護のため、利用者がインターネット事業者に情報削除を要求できる「忘れられる権利」を盛り込む法案をまとめた。違反には最高100万ユーロ(約1億100万円)の罰金が科される。その後、2013年10月に可決され、違反に対する制裁が強化され、規則を破った企業は、1億ユーロ(約136億円)と、世界的な年間売上高の最大5%のうち、いずれか大きい方を上限とする罰金が科せられることなった。誹謗中傷やデマに限らず、ネット上の過去の情報を見られないようにする「忘れられる権利」は、英米を中心に注目されているが、日本でも真剣に議論するべき、との声が広がっている。こちらもどう思われるだろうか。
インターネットの基本知識と具体的知識
ここまで読まれた方は、じゃあどうすればいいの?と思ったことだろう。知ってほしい知識をまとめたものが、インターネット協会のサイトにあるので是非一読してほしい。基本知識「インターネットを利用するためのルール&マナー集」
「自分の身は自分で守る」「相手のことを思いやる」「声や表情は伝わらない」「セキュリティ」「関連法規」など、安心して利用するために、身につけること、覚えておく基本を説明。その知識習得を確かめるためにクイズ形式で覚えてもらう「インターネットルール&マナー検定」も用意している。受検は無料。
具体的知識「インターネットを利用する際に知っておきたい“その時の場面集”」
幅広い年齢層に利用されている主要なインターネットサービスについて、それぞれの利用方法や注意方法、トラブルに遭った際の問い合わせ方法、有害情報を見つけた場合の連絡方法など、必要と思われる場面を集めて具体的に説明。
現在、Ameba、Googleアカウント、GREE、LINE、Mobage、Twitter、YouTube、ココログ、ニコニコ動画、の9つのサービスを掲載。その他、順次追加予定である。
インターネットでどのような振る舞いをすればよいのか
SNSが浸透してから、インターネットは極めて個人的な使い方になってしまった。通勤電車では、多くの人がスマホ画面をじっと見つめてタップを繰り返している。LINEメッセージの返信に追われたり、自分のSNSと目に入るニュースを見て、他人のSNSや埋もれたニュースを自発的に見ることがない。いろいろな人の考え方を知ることができるインターネットなのに、同調意識に呑まれて自分の興味範囲に偏っているのではないだろうか。新聞を読むような感覚で、もっと他者を知る、他者のおかれた人間環境を知る、その人のことを思いやる目で見る、そして周りに流されずに自分で考えること、これこそがリテラシーの向上である。会社としてSNSの使い方やポリシーを作っているところもあるので、参考にするとよいだろう。インターネット協会の私が言うのには矛盾があるが、声を大にして「インターネットに振り回されないように、現実も見据えることが大切!」と言いたい。インターネットから一時離れてみて、現実の世界でいろいろな人がいることを知って、そしてインターネットに戻った時、「ここでの投稿には相手の立場を考え言葉遣いに注意した方がいい」と、責任ある振る舞いができるようになるもの。現実で体験をしっかり重ねていくべきだろう。
ところで、相談後の報告がほとんど寄せられないことが残念でならない。「人権侵害をこうやって克服した」「ネット依存しない方法を考えた」等の出来事があったら、インターネット協会に寄せてもらえませんか。その実体験こそが、楽しく安心して利用するための大きなヒントになるのだから。
・インターネットと人権侵害(その1)
・インターネットと人権侵害(最終回)
2015.7掲載